大統領選結果とこれから

 選挙結果がでてから一週間がたちました。ドナルドトランプが次期アメリカ大統領に当選が決まりました。アメリカが、世界中が、パニックになっています。

 アメリカは建国以来、とくに二〇世紀後半、自らが掲げる「自由と平等」や「多文化」の道を歩んできました。
 60年代は黒人の権利運動やヒッピー文化、70年代には同性愛者のムーヴメントが盛り上がりました。80年代にはヒスパニック移民の問題化。大きな課題を抱えながらも、かろうじて「多文化が共存する国」を目指してきました。
 それが遂にストップしてしまうのでしょうか? トランプ政権はまだ始まっていませんが、当選しただけですでに数十年分のバックラッシュ(後退)は起こっているでしょう。イスラム教徒やメキシコ移民に対する攻撃。黒人や女性の蔑視。それを民主主義の超大国アメリカが選んでしまったという事実が、否応無しに国のすみずみまで広がっていくでしょう。本当に恐ろしいことです。

 この選挙結果は多くの人にとって衝撃でした。けれども、ことの本質は一年を通して議論がつくされて、もう答えは出ているように思います。
 つまり、このトランプ現象というのは、アメリカでの格差の広がり(中流層の貧困化)が生んだ、憤りの表出だということ。その感情をトランプが利用して、ヒスパニック、イスラム教徒、アフリカンアメリカン、都市部のリベラル、メディアといったにものへの憎しみにすり替えて票に結びつけた、ということです。

 そして、この「格差と憎しみによる排外主義」というバックラッシュがアメリカだけの出来事ではなく世界的な歴史の潮流だということ。グローバリゼーションの巨大な波が押し寄せ、一部企業だけが繁栄し、各国で不況がひろがり、従来の先進国における相対的貧困(格差)は益々ひろがっています。それにつけこんだ極右政治家が闊歩するようになったのが21世紀初頭であるということです。
 極右政党の勃興は世界的な現象です。ルペン党首のフランス「国民戦線」。イタリアの「北部同盟」、「ドイツのための選択」党。イギリスではEU離脱を牽引した「独立党」。そして日本では、いまだに大阪で猛威をふるっている「維新の会」や、「日本のこころ」。名前も出したくないが「在特会」なんてのが居ます。
 つまり、このトランプ現象は、まったく、日本の問題でもあるのです。

 もう一点あります。それは、この大統領選挙における共和党と民主党の戦いが、あまりにも日本の政局を思い起こさせるということです。憲法改悪へすすむ日本を思うと背筋が凍りつきます。
 アメリカ共和党の「Make America great again.」と日本の自民党の「この国を取り戻す」。組織票を読むばかりで市民の心を掴むことがなかったと批判されるアメリカ民主党の指導部と日本の民進党。また、ひろがる格差をなくすための指針や経済政策を打ち出すことのできない民主党(民進党)。芸能人を見方につけても大衆の心をつかむことのできなかったクリントン候補は、規模が違うとはいえ、都知事選で森進一さんを登壇させたが活かしきれなかった鳥越俊太郎候補を思い出しました。饒舌に、中身のない「改革」をうたって大衆心理につけこむ手法は小泉純一郎・橋下徹・小池百合子の流れにそっくりです。
 そして何より、メキシコ移民やイスラム教を攻撃するトランプは、在日韓国・朝鮮人にいわれない攻撃をしたり、お隣りの韓国や中国のことを悪く言うような風潮がはびこってきた現在の日本を思いださずにおれません。

 トランプ現象を、アメリカ国内問題とだけ見てはいけないと思うのです。そして、「トランプ」を「外交問題」や「経済問題」と捉えることさえ、なんだかスジが違うように思えてなりません。
 「TPPが批准されないからトランプも悪くないかも」とか「米露の協議がはじまればシリア問題が解決に向かうから、トランプも悪くないかも」などと、僕たち市民はいちいち口にする必要があるでしょうか。
 さらに、「在日米軍が引き上げれば基地問題を解決できるかも」とか「日本の国家主権の観点から日米同盟に消極的なトランプを歓迎」などという意見がこれから多くなると思います。そんなことを言っている場合ではないと思う。(ましてや「日本の主権を取り戻す云々」なんてのは・・・物事の一面しか見ないオポチュニズム。)
 かつて1930年代には10年かけて徐々に世界大戦へ向かって行きました。そんな時代を思い出させるいま、僕たち市民が、瑣末な「国益」の損得計算をやっている段階ではないのではないか。

 いま、求められていることは、「格差をなくすために何をすべきか考える」・・・ホントこれしかないでしょう。「新しい日本型の高福祉国家像」とか「新しいリベラリズム」とか、そういうのを構築しないといけない。

 とくに民進党は、対抗軸となる経済政策を打ち立てて、政権交代を目指してほしい。〈リベラルの受け皿〉というポジションを明確にして、たくさんの市民の応援を取り付けてほしい。
 同じく共産党や社民党も頑張ってほしい。自由党も頑張ってください。

 僕たち市民は、この世の中にはサンタクロースやスーパーマンは居ないということを肝に銘じながら野党を応援していくべきです。

2024年6月

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