ビリー Billie

 


映画『ビリー Billie』公開になりました。「ピーターバラカン映画祭」は素晴らしい作品ばかり。
ビッグバンドジャズが大金のうごめく娯楽の王様だった1940年代。それから三十年がすぎた1970年代おわりに、ビリーホリデイを薄幸の天才歌手という紋切り型の枠からはずそうとの試みが、人知れずあった・・・。
二人、いや三人、のビリーが登場するという、ちょっと不思議な、しかし核心に迫るドキュメンタリー秀作。
ビリーの大迫力の色気と気迫が、カラー高画質高音質で鮮やかによみがえります。ホンモノを観たらどれだけスゴいことだろうと思った。僕はビリーホリデイの映像なんてたいがい観ていたつもりでしたが、これは畏れ入りました。

映画は、謎が二重三重にかさなるようにしてすすんでゆきます。とてもイイ。
なんでもそうですが、答えがすぐ目の前にあらわれてしまったら、それは答えじゃない気がしてしまう。
ビリーホリデイとは何だったのか、掴みとろうとしても掴めない永遠の謎です。
その謎が、〈病院坂の首縊りの家〉みたいに、三十年も経ってから殺人事件に発展。
しかも犯人は、なんと誰もが大好きなあの人...。そ、そんなバカな! (あー言いたい。)
でも僕は、さもありなんと思っている。だって、よく考えてみれば、そんな一筋縄でいく人物のはずがないでしょう? だって王様ですよ、違いますかね?
(よーするに、1930年代1940年代、いかにジャズがビッグビジネスだったか、ということ。分かりきったことだけど、これは僕の大きな収穫だった。)
しかも、サスペンス映画の王道のやり口で、「犯人は一番最初にさらっとでてくる」ってやつですよね、これ・・・。
ドキュメンタリーだから笑ってはいけないけど、ちょっと吹き出してしまうくらい。

ジャーナリストのリンダは、ビリーの本当の姿を描こうとして、もはや気持ちはビリーが憑依するほどの処まで来ちゃっていた。だからこそ、言葉を綴って書き切ってしまうことができなかった。最後の表現がみつからなかった。その総括は、僕はとても心に沁みました。

いつか翻訳してみたいと思っていた名曲「奇妙な果実」を、この機会に書いてみました。まだちょっとざっくりですが! http://osakamonaurail.com/nakata/2021/07/-1939.html
選挙毎に恒例の「もし僕が〇〇民だったら」です。

僕はいま横浜市民ですが、もし仮に世田谷区民であったなら・・・を書いてみたいと思います。
世田谷区民のみなさんにはおせっかいかもしれませんが、世田谷区も何かとお世話になっているところです。お許しください。

207510556_4825713340789219_2773379591258308364_n.jpg
都議会における世田谷区選出は定員8名です。
候補者は下記の18名です。

現職 無 大場康宣(おおばやすのぶ)元区議、金物小売業
現職 都 福島理恵子(ふくしまりえこ)婦人発明家協会、元製造業社員
現職 自 三宅茂樹(みやけしげき)中小企業診断士、元衆議秘書
現職 自 小松大祐(こまつだいすけ)障害者支援NPO、元区議
現職 立 山口拓(やまぐちたく)環境NPO、元区議
現職 共 里吉ゆみ(さとよしゆみ)元区議、損保会社員
現職 都 木村基成(きむらもとなり)元参議秘書、建設会社員
   無 岸秦正(きしやすまさ)通信業社員、中小企業診断士
   公 高久則男(たかくのりお)元銀行員
   れ 風沢純子(ふうさわじゅんこ)看護師
   諸 森里香(もりりか)医療会社役員、看護師
   ネ 関口江利子(せきぐちえりこ)立/緑 元生協、訪問介護員
元職 国 関口太一(せきぐちたいち)参議秘書、元区議
   諸 サルサ岩渕(さるさいわぶち)平和の党、元プロボクサー
   自 土屋美和(つちやみわ)元衆議秘書、アナウンサー
   立 風間穣(かざまゆたか)社民推薦 元区議、人材開発会社役員
   維 岡林裕佳(おかばやしひろか)元医療機器会社員
   無 油井史正(あぶらいふみまさ)自営、元製紙会社員

定数8のところ、上票では現職が七名しかいないのは、公明の栗林のり子が高久則男に交代したからです。
前回2017年の選挙では、8議席が「都都公共自民自自」というふうに埋まりました
小池百合子旋風が吹き荒れ、都民ファーストがトップと二位の二議席をおさえました。信じがたいことでした。
小池人気の衰えで、都民は議席を失う、すくなくとも一議席のみとなってほしいところです。
そうすればニ議席または一議席が空きます。

立憲民主党の山口拓、共産党の里吉ゆみ、の両名にはかならず当選してほしいものです。
そうなってくると問題は、立憲の風間穣(社民推薦)がどこまで健闘できるかです。
ネットの関口江利子は立憲と緑グの推薦を得ているそうです。
その二人で票を食い合ってしまい、どちらも議員になれない、ということを心配してしまいます。
前回は、ネット(岡本京子)と社民(桜井純子)が票を食い合ってしまい、自民の三議席を許していたようでした。
今回も同じような構図ではないのでしょうか。
そういうことで、二人のホームページをのぞいてみます。
関口江利子 https://sekiguchi.seikatsusha.me/   
風間穣 https://kazamayutaka.com/   
はっきり言いまして、関口江利子はネットワークなのでいいのですが、日本語が幼稚で、まったく心もとない。「メッセージ」を読みましたが、どなたか作文の手伝いできる人おらんかったんかい、と申し上げたい。
風間穣は、ホームページぜんぶ読みましたが、「教育」ばかり云っているが、どのような教育理念をもっているのか、一切書かれていない。ぜんぜんダメだ。
うーん、悔しい。これが現実の世界というものだ。
(そういえば、立憲の山口拓も前回は、「小池知事とともに東京大改革に挑戦!」などと意味のわからないことを言っていた。今回は、「東京を取り戻す」などと言っている。誰から、小池から?)

そういうわけで、どちらもまったくダメだが、個人の資質ではなく、政党で「よりマシ」を選ぶのが市民の務めであるから、立憲の風間へ投票しなければならない。
くわえて、風間を応援しなければ、あらたに維新に議席を明け渡してしまうことになりかねない。恐ろしい。
(やはり、ここまでくると、政党を甘やかすのは市民の自殺行為であるという信念のもと、選挙情勢に左右されず、理念にそった政党をえらんで投票するべき、というもう一つの戦略があたまをもたげる。其の場合は共産党になるだろう。)

非常に苦しい。じつに苦しいが、「よりマシで選ぶ」「政党で選ぶ」という基本に立ち返るべきだ。僕が仮に世田谷区民であったならば、立憲民主党の風間穣(かざまゆたか)に投票します。

大切なお願い。立憲民主党は、もっと素晴らしい候補者をそろえて、投票する側が投票しやすい党に成長してください。



(写真提供:遅刻斉さん ありがとうございます)

奇妙な果実(ビリーホリデイ 1939年)

 
Strange Fruit by Billie Holiday




南部の樹には 奇妙な果実が
葉に血がしたたり 根にも血がたれる
黒い肌の遺体が 南部の風にゆれる
奇妙な果実が ポプラの木に生っている

南部心いっぱいの のどかな光景
飛び出た目玉 ひんまがった唇
甘くみずみずしい モクレンの香り
ふと鼻をさす 人肉の焦げる臭い

果実をカラスがつついて
雨にうたれ 風にふかれて
陽にあたって腐り やがて木から落ちた
奇妙で苦々しい 収穫である



Southern trees bear a strange fruit
Blood on the leaves and blood at the root
Black bodies swinging in the southern breeze
Strange fruit hanging from the poplar trees

Pastoral scene of the gallant south
The bulging eyes and the twisted mouth
Scent of magnolias, sweet and fresh
Then the sudden smell of burning flesh

Here is a fruit for the crows to pluck
For the rain to gather, for the wind to suck
For the sun to rot, for the tree to drop
Here is a strange and bitter crop



HIGER GROUND by STEVIE WONDER, 1973



人々よ 学びつづけるがいい
 兵士よ 殺しつづけるがいい
  地球よ 回りつづけるがいい
    ちかいうちに終わりがくる

政府よ ずっと嘘をついていろ
(国民が命を落そうが構うもんか)
   地球よ 回りつづけるがいい
    ちかいうちに終わりがくる

 最初からやり直せるんだ ありがたいこった
 前回地球に住んだ時には 世界が罪だらけだった
 すこしずつ賢くなってく ありがたいこった
 何度だって、やり直そう 最上界にたどりつくまで


教師よ 教えるがいい
 牧師よ 説教するがいい
  地球よ 回りつづけるがいい
   ちかいうちに終わりがくる

恋人たち 愛し合うがいい
 信じられるだけ 信じるがいい
    眠れる者よ 眠りから目覚めよ
       ちかいうちに終わりがくる

 最初からやり直せるんだ ありがたいこった
 前回地球に住んだ時には 世界が罪だらけだった
 すこしずつ賢くなってく ありがたいこった
 何度だって、やり直そう 最上界にたどりつくまで

 最上界にたどりつくまで
 誰にも邪魔させるな
 最上界にたどりつくんだ
 奴らが足をひっぱろうとする
 神が最上界を教えてくださる



People, keep on learning
Soldiers, keep on warring
World, keep on turning
'Cause it won't be too long

Powers, keep on lying
While your people keep on dying
World, keep on turning
'Cause it won't be too long

I'm so darn glad he let me try it again
Because my last time on earth I lived a whole world of sin
I'm so glad that I know more than I knew then
Gonna keep on trying
'Til I reach my highest ground

Teachers, keep on teaching
Preachers, keep on preaching
World, keep on turning
'Cause it won't be too long

Lovers, keep on loving
Believers, keep on believing
Sleepers, just stop sleeping
'Cause it won't be too long

I'm so glad that he let me try it again
'Cause my last time on earth I lived a whole world of sin
I'm so glad that I know more than I knew then
Gonna keep on trying
'Til I reach my highest ground

'Til I reach my highest ground
No one's going to bring me down
'Til I reach my highest ground
Don't you let nobody bring you down
They'll sho 'nuff try
God is gonna show you highest ground



Visions(スティービーワンダー 1973年)

 
"VISIONS" by Stevie Wonder, 1973




ひとは手を取り合って
とうとう約束の地へやってきた
憎しみは儚く消え 愛は永遠につづくーー
僕の頭の中に見えるだけだろうか?

法律が実現しなくたって
「ついに自由だ!」と信じられる時代
はるばるやってきた ここまでやってきたーー
僕の頭の中に見えるだけだろうか?

 おとぎ話をしてるんじゃない
 葉っぱは緑色で
 茶色にかわるのは秋
 本当のことしか言わないよ
 今日は昨日じゃなくて
 万事に終わりがある

でも、知りたいのは
そんな美しい国は存在するかということ
翼をつけて飛んで行こうかな
みんなで、頭のなかに見える世界へ

 おとぎ話をしたいんじゃない
 葉っぱは緑色で
 茶色にかわるのは秋
 本当のことしか言わないよ
 今日は昨日じゃなくて
 万事に終わりがある

でも、知りたいのは
そんな美しい国は存在するかということ
翼をつけて飛んで行こうかな
みんなで、頭のなかに見える世界へ


People hand in hand
Have I lived to see the milk and honey land?
Where hate's a dream and love forever stands
Or is this a vision in my mind?

The law was never passed
But somehow all men feel they're truly free at last
Have we really gone this far through space and time
Or is this a vision in my mind?

I'm not one who make believes
I know that leaves are green
They only turn to brown
When autumn comes around
I know just what I say
Today's not yesterday
And all things have an ending

But what I'd like to know
Is could a place like this exist so beautiful
Or do we have to find our wings and fly away
To the vision in our mind?

I'm not one who make believes
I know that leaves are green
They only change to brown when autumn comes around
I know just what I say
Today's not yesterday
And all things have an ending

But what I'd like to know
Is could a place like this exist so beautiful
Or do we have to take our wings and fly away
To the vision in our minds?





Too High(スティービーワンダー 1973年)

 
"TOO HIGH" by Stevie Wonder, 1973




ハイになっちゃった
やりすぎちゃった
それでも
この手が 空に届くわけもなく

ハイになっちゃった
やりすぎちゃった
それでも
この手が 空に届くわけもなく

 夢をみてる彼女
 四つ目のオバケがテレビに映ってる
 またひとつ吸って こう言う
 「こりゃあスゲエ場面だな」
 赤色はめっちゃ緑色で
 彼女はミカン

ハイになっちゃった
やりすぎちゃった
それでも
この手が 空に届くわけもなく

ハイになっちゃった
やりすぎちゃった
それでも
この足が 地面から浮くでもなく

ハイになっちゃった
やりすぎちゃった
もう
地面に降りたくないね

 彼女が住むところ
 そこは見せかけのパラダイス
 かつては幸せになれるチャンスもあった
 もはや無理だけど
 自分のせいでね

(間奏 ハーモニカ)

ハイになっちゃった
やりすぎちゃった
それでも
この手が 空に届くわけもなく

ハイになっちゃった
やりすぎちゃった
もう
苦しくて死にそうだ

 彼女は過去の人
 やっと分かってくれたみたい
 そして 今日どうなったか、知ってる?
 亡くなったんだって
 知り合いがこう言ってたよ:

「ハイになっちゃった」って
「やりすぎちゃった」って
「あれじゃ持たないよね」って。


I'm too high
I'm too high
But I ain't touch the sky
I'm too high
I'm too high
But I ain't touch the sky

She's a girl in a dream
She sees a four eyed cartoon monster on the T.V. screen
She takes another puff and says "It's a crazy scene"
That red is green
And she's a tangerine

I'm too high
I'm too high
But I ain't left the ground
I'm too high
I'm too high
I hope I never ever come down

She's the girl in her life
But her world's a superficial paradise
She had a chance to make it big more than once or twice
But no dice
She wasn't very nice

I'm too high
I'm too high
I can't ever touch the sky
I'm too high
I'm so high
I feel like I'm about to die

She's a girl of the past
I guess that I got to her at last
A did you hear the news about the girl today
She passed away
What did her friend say

They said she's too high
Too high
Can't hang around anyway...


音楽の空想

 
 ジェイムズブラウンの音楽というものを、まだ聴いたことがなかった高校生のころ、「〈ジェイムズブラウン〉っていう人の音楽って、こういう感じかな?」と妄想していた、そういうみじかい時期がある。(いまでも、その妄想はつづいているのだけれど。)
 音楽を聴いたこともないのに、なぜ妄想が始まったかというと、それは、名前だけを先に知ったからだ。奈良の学園前というところで母親の歯医者を待っているあいだ(それは重要ではないけれど)、歯医者のとなりにあった図書館に入り、そこで、音楽の本がならぶところで、マイルスデイヴィスに取材した本を手にとった。
 「オレはジェイムズブラウンのような音楽をやるんだ」とマイルスが記者に答えていた。それ誰だろう、となった。ひきつづいて、坂本龍一の対談集だったか何だったかを読んだ。そうすると、「世の中には、ボクのやるような音楽と対極に位置する音楽も存在しているわけですよね。たとえば、ジェイムズブラウンっていう人は、自分のコンサートで毎ステージ、あまりの自己陶酔で、さいごに卒倒してしまうらしい」とかなんとか、言うているのを読んだ。(うろ覚えです。)
 そういうわけで、へえ、そりゃあ凄そうだな、どんな音楽なのだろう、と思った。僕のなかで、まだ聴いたことのない〈ジェイムズブラウン〉という音楽への妄想はふくらんでいった。そして、その妄想はいまでも、ある。聴こえる。それがどんな聴き心地の音楽なのか、言葉で説明できたらいいけれども、簡単には説明できない。ただ、無理を押して書くなら、「ジェイムズブラウンという名前の、ものすごいエネルギッシュなおじさんが居て、そこらじゅうを飛び跳ねているような感じ」ということである。まあ、何も言っていないに等しいけれども。
 そこから三十年以上が経ったのだけれど、その妄想音楽とぴったり同じものは、いまだに耳にしたことがない。しかし、それに一番ちかいと云える曲が、たった一曲だけ、いちおう存在している。それはジェイムズブラウンの「It's Your Money$」という、よっぽどのファン以外は誰も気に留めていない曲なんである。
 だから、ジェイムズブラウンの録音物は星の数ほどあるにせよ、そのなかでも、その曲が僕の考える理想の音楽である。いや、それは言い過ぎ。「僕が勝手に妄想していた音楽に似ている」。いや、それだと話がちいさくなっちゃう。その妄想はまだ終わっていないから、「僕がいまだに妄想している音楽にかぎりなく近い」ということです。
 ところで、その曲のプロデューサーは誰なのかとか、参加ミュージシャンは誰なのかとか、録音された年はいつか、お芋を掘るときのつるみたいにたぐってゆけば、似たような曲がみつかるのではないかと、ふつうは考える。ところが、なんとこれが、一体だれがプロデューサで誰が演奏しているのか、いつ録音されたのか、歌詞を書いたのは誰か作曲したのは誰か、いまだに、まったくナゾの曲なのである。
 歌っているのはジェイムズブラウンなのだけれども、そして、この音楽は、明らかに、前からみても斜めからみても、「こりゃあジェイムズブラウンの音楽」「こりゃあジェイムズブラウンが率いているバンドの演奏」とわかるものだ。そういうファンクだ。ただし、「こんな曲は、ジェイムズブラウンの他のレコードをいくら探しても、ほかには無い」というものなのである。すくなくとも、僕の耳にはそう聴こえる。
 いちおう言うておくと、誰が聴いてもカッコいい曲かどうかは、わからない。僕の知る限り、世の話題になったことが一度もないという埋もれた曲であるので、これを読んでくださった人が聴いたところで、イイと思うかどうかは確信がない。でも、繰り返しになるけれども、とにかく僕が三十年以上妄想している雰囲気に限りなく近い曲は、これ一曲しかない。

 そんなことなのであるが、ここから衝撃の展開がある。もちろん、僕にとって衝撃なだけで、他の人にはつまらないことかもしれない。
 つい半年くらい前だったか、ものすごいジェイムズブラウンのマニアが居て・・・ってそりゃあまあ、世界中にいろんな人がいる。ジェイムズブラウンのファンと一口に言っても、ライブが好きな人、レコードが好きな人、写真が好きな人、リズム&ブルーズが好きな人やジャズが好きな人、歌が好きな人やダンスが好きな人、男の人や女の人、おじさんおばさん、おじいさんおばあさん、アメリカ人やヨーロッパの人や日本の人、オバマが好きな人やトランプ支持の人、60年代からライブに通っていた人、70年代や80年代からライブを観ている人、ヒップホップから来た人やらリズム&ブルーズが好きな人、もう、本当にいろんな人がいる。それぞれの切り口で、ジェイムズブラウンというものを愛して、楽しんでいる。  そういうファンの一人。僕がとてもシンパシーを感じているヤツがいるのだが、彼が、その曲「It's Your Money$」は、1980年のアルバム「Soul Syndrome」のアウトテイクだと思う、とぽつりと言った。たぶんそうじゃないかな、と言った。そいつもこの曲のことが好きだったのだ。
 僕は仰天した。
 ああ、なんでこんなことに気づかなかったんだろう! その通りだ。演奏をしっかり聴けばわかる。僕は、自分の思い込みと、よくわからないSEにまどわされて、ちゃんと自分の耳で演奏を聴いていなかったのだ。それとその「妄想」と。
(書くのがずいぶん遅れたけれども、その曲は、1989年の異色ヒップホップアルバム『I'm Real』におさめられていて、一番最後のほうに、ひっそりと収録されている。曲はいやらしいほどに派手な曲なんだが、それがゆえに居場所がなく、人が気づかないようなところにあるのだ。)
 僕はてっきり、打ち込みビートでアルバムをつくる際に、ジェイムズブラウンが、一曲だけオレのバンドの曲を入れろ、ってワガママを言ったのかな、と想像していた。だから、これは80年代後半のメイシオとスウィートチャールズが率いる「Soul G's」の演奏かなと思っていた。まったく違う。いわゆる「編集室の床におちていたテープ」ってやつだ。10年ちかく前の録音を、どこからともなく引っ張り出して、新たにボーカルとSEをオーバーダビングを施した曲だったのだ。だからこれは「ザ・JBズ・インターナショナル」の演奏だ。
 どこにも証拠はないけど、いちおう僕だって長年のJBファンだ。言われさえすれば、この仮説は正しいとすぐに分かる。それって、世界じゅうのJBファンは、みんな分かっていたことなのか? 彼は、「たぶんそうだろうなー」ってずっと考えてたらしい。早く言ってくれよ!
 そんなわけで結論が三つ。一つは、1980〜1981年あたり、冬の時代といわれている頃のジェイムズブラウンサウンドは、とっつきにくいかもしれないが、じつは、すごい。二つ目は、僕の妄想音楽は、やっぱり妄想音楽で、あるどこかの歴史の時点には存在しない音楽だったということ。最後に、この妄想は1990年代的な「リサイクル」っぽい発想から来ているということ。
 じゃあ、とりあえず、「妄想音楽のつくりかた」は、もう分かってきたやん。・・・そういうことになるのかもしれない。あくまで妄想。


<<前のページへ 1234567891011

2023年5月

  1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30 31      

月別 アーカイブ