現代の戦争

ぼくが小学校三年生のとき、『はだしのゲン』を読みました。
そして思いました。「なぜ、戦争などという、誰が見ても愚かなことが、馬鹿げたことが起こるのだろう?」。
この問いはとても重要ですが、けっこう難しくて、なんだかんだ言っても、やっぱり解明されていないように思います。
太平洋戦争がなぜ起こったか、日中戦争がなぜ起こったか。
大きな組織(国家)の話ですから、話が重層的に入り組んでいるので、あまり明快な答えが聞かれないのです。

でも、だいたい、答えは、
「庶民の命なんてこれっぽっちも気にしていない勢力が権力を握るに至ったから」
ということではないのか。
欧米諸国が戦争をやっていたので日本も戦争をやったのだ、とか、やれ植民地争いだ、経済制裁だ、世界恐慌だ、軍部暴走だ・・・とかいろいろ読みます。
きっとその通りなのだろうと思います。
でも、つまるところ、人間の命よりも優先される大事なことがあると思っている(すくなくとも、そういう言動をとる)人間が、人のうえに立ってしまったから、あのような悲惨なことが起こったのだと思う。そこが最も重要な点なのではないか。

戦争は差別だ。
僕はそう思っています。
開戦の決定をくだすのは、自分が戦場に行くことなんて考えてもみない人たちなのです。
たとえば、アイゼンハワーとスターリンとか、レーガンとブレジネフとか、ブッシュとビンラディンとか、トランプと習近平とか、安倍と金正恩とか、二人でかってにボクシングでも相撲でもいいから、やってくれたらそれでいいのです。もしそういうことなんだったら、せいぜい張り切って、頑張ってほしいものです。
でもそんなことにはなりません。
一番に、貧しい人から戦場に行きます。年齢の若い人から戦場に行きます。田舎のひとから戦争に行きます。
だから、じっさいに戦場に行くのは自分ではないと思い込んでいる世の中の大半のひとが「戦争も仕方ないだろう」って思うから開戦してしまうのでしょう。そこに戦争の本質があると思う。

いまは日本は戦争をやっていません。でも、貧富の差が拡大の一途をたどっています。それが現代の「戦争」です。
貧しい人の生活など気にしない富裕層や中間層がいるから、この「戦争」が拡大しつづけるのでしょう。
貧しい人は、ほかの貧しい人の心配をする余裕もありません。

たとえばこういうことかなと思うのです。ウーバーイーツの自転車が街をはしっている。
それで、僕はとっさにこう思う。
「あ、この近辺もウーバーイーツやってるんだ。おいしいお店はあるかな? でも、ウーバーイーツは少し割高だから、クーポンあるときだけにしておこう」
そんなことが頭にうかんでしまう。
よーするに、自分は食べるほうの側だと思い込んでいて、運ぶほうの側だとは考えない。
どうして自分は食べるほうの側だと思い込むのかというと、それは広告の力です。

これを読んでくださっている人のなかには、運ぶほうの側の視点でみている人もいるかもしれません。そういう視点が必要だと思います。
日本全体の経済をみれば、これから、「食べる人」は減って「運ぶ人」はますます増えることは間違いありません。
僕は、僕たちは、運ぶ側の人なのだ。運ぶ人なのだ。これから運ぶ人になるのだ。食べる側でもピンハネする側でもない。それは明らかなのだ。だから、運ぶ側の視点でものを考えることができないと、大変なことになってしまう。

ウーバーイーツは、これからどうなるのかな。
「運搬代は無料」っていうのを打ち出すだろう。「運搬代はウーバーイーツが負担!」かもしれない。どっちでもいい。
800円のランチに200円の一品をつけたら1000円。1000円をこえたら運搬代は無料。そんな風になるだろう。
いや、それどころか、もっとヒドいモデルも考えられます。
800円のランチ一つでも、これからは運搬代は無料。
えっ、すごいじゃん!ってなる。
よーするに規模を拡大して、価格やら賃金やらを数分刻みで「最適化」したらこれくらいのことは簡単にできる。これはひどい。これは結果的には、製造者(つくる人)と従事者(運搬する人)と購買者(食べる人)をお互いに殺し合わせるようになる。
そんな感じの作戦でくるんじゃないのか。
コンビニとかアマゾンはそうだ。
グーグルなんてもっとひどい。情報提供はすべて「無料」だ。

何が言いたいかというと、僕たちは、働く人たちの姿がみえないように仕組まれている世界に生きているということです。それがインターネットの世界、広告の世界だと思います。
それが、この貧富の差を拡大させる仕組みとして機能しているのだと思うのです。
インターネットやスマホの世界は、ドラえもんでいえば「うそつきかがみ」、ハリーポッターでいえば「みぞのかがみ」なわけだ。それをみんなで覗き込む。
そこには、本当にちゃんと働く人は映っていません。
だからこそ、自分は食べ物を運んだりすることはないと思い込むんだと思う。

僕たちは、子供によい教育をほどこしたり、不況を無くしたり、格差を無くしたりする責任がある。政府にその責任があるのだけど、政府にそれをやらせるという責任がある。これが、ぼくたち大人全員の責任。
でも、いま何がおこっているかというと、僕たちは目をつぶって、そんな問題は存在しないことにしている。
これが現代の戦争なのでしょう。

なぜ戦争が始まるのか、よくわかりません。でも、『はだしのゲン』は、戦争には、戦争をやらせる側と戦争で苦しむ側の二つの「側」があるということを明解に伝えていました。いまは、ふたたび、深い霧がかかって、それが分からなくなってきているようです。



2020年12月

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