ソウルミュージックとプロテストソング その3:1970-1974

ソウルミュージックとプロテストソング(全3回)
その3:1970-1974



 話しを東海岸に戻します。1971年に登場したのが〈新しい詩人〉ことギル・スコットヘロンでした。彼はどのようなテーマを扱ったでしょうか。
 「REVOLUTION WILL NOT BE TELEVISED(革命はテレビで放送されない)」は、テレビは大企業による広告だから、黒人に役立つことは何も映っていないという詩です。つまるところ、自分たちの暮らしを良くするためには集会や行進をやらなければならないと訴えています。二枚目アルバム収録の「THE BOTTLE」は「ビン漬け」とでも訳せばよいのか、《あそこの父ちゃんも〝ビン漬け〟だぜ》といって、ゲットーにおけるアルコール中毒の悪害について訴えています。「HOME IS WHERE HATRED IS」は、同じくゲットーで麻薬に冒されて死を待つだけの絶望的な日々をおくる人の歌です。




 ロバータ・フラッグの歌った「COMPARED TO WHAT?」も、資本主義や政府の欺瞞を暴こうと試みる歌です。それから、ダニー・ハサウェイが登場して、「EVERYTHING IS EVERYTHING」(僕なら「どないもこないも」とでも訳します。ここでは〈ゲットーの人々の現実をみろ〉という意味)、「GHETTO」、「LITTLE GHETTO BOY」を歌いました。




 このころを境に、ニューヨーク、LA、シカゴ、デトロイトといった北部・西部における都市部でのゲットーの問題のプロテストソングが増えます。貧困・暴力・麻薬・アルコール・ギャンブル・住宅・医療、それから警察暴力の問題を訴えます。

 七〇年代の旗手といえば、あと二人、マービン・ゲイとスティービー・ワンダーでしょう。そして、ひきつづきカーティス・メイフィールドです。
 マービン・ゲイの『WHAT'S GOING ON』はアルバムまるごと社会派ソングのコンセプトアルバムでした。有名な表題曲については、ベトナムでの戦争と、アメリカの世代が分断していること(ヒッピーや学生と保守派)を、自らの親子喧嘩(父親とマービン)に重ね合わせているのは僕はどうも感心しません。ただ、「さまよえるアメリカ」という時代の雰囲気は見事に掴んでいるのでしょう。二曲目は、ベトナムからの復員をひかえた兵士が電話で「そろそろ帰れそうだよ! そっちはどんな調子だい?」と訊くのだが、故郷の友人たちは生返事ばかり、という歌。これは反戦曲であると同時に、不況を描いています。他の曲は、麻薬、放射能や大気汚染など、テーマは多岐にわたります。
 ラストを飾る「INNER CITY BLUES (MAKE ME WANNA HOLLAR)」は、都市の内部(つまりゲットーのこと)における〝現代のブルーズ〟を綴ります。静かな曲調がその叫びをいっそう際立たせています。貧困・インフレ・失業・増税......。そして貧しい若者から順にベトナムに志願してゆきます。



 スティービー・ワンダーの「LIVING FOR THE CITY」は、都市とは、田舎からやってくる黒人を飲み込むという物語です。ミシシッピ州のまっとうな青年が大都会ニューヨークで、警察の蛮行により投獄され、元囚人となってしまうストーリーを描いた名作です。

 「YOU HAVEN'T DONE NOTHING(アンタは何一つ成し遂げていない)」は、ウォーターゲート事件をうけて退陣寸前であったニクソンに宛てた歌。「HE'S MISTRA KNOW-IT-ALL(あの人は、なんでも出来る素晴らしいお方)」もニクソン大統領へ皮肉なげつける曲でした。



 ソロに転向してからカーティス・メイフィールドがとりあげた問題も、都市ゲットーの貧困・犯罪・麻薬過多(『SUPERFLY』・『THERE'S NO PLACE LIKE AMERICA TODAY』)、ベトナム復員兵の悲劇(『BACK TO THE WORLD』)です。それから、肌の色なんて最終的には関係ないんだ、肌の色で人や物事をみてはだめだというメッセージ(「IF THERE'S A HELL BELOW」・「THE UNDERGROUND」)を引き続いて訴えました。大事なものが最後になりましたが、「MOVE ON UP」や「KEEP ON KEEPIN' ON」は、下火になってしまった公民権運動に喝を入れようとするものでした。




*     *     *

 20世紀初頭にはじまり1940年代をピークに1970年ごろまで、六百万人の人々が、自由をもとめて北部・西部に移り住みました。〈大移動〉の先に待ち受けていたものは都市の貧困問題や麻薬戦争
でした。探し求めた「約束の地」は、北の方角には無かったということになるのでしょうか?
 前述した「LIVING FOR THE CITY」は、まさに上記を描きだした大作です。かつて1950年代には、北部のシカゴから差別のはげしい南部であるアラバマをおとずれたエメット少年が、白人女性に口笛をふいたためにリンチで殺害されたのですが、いまや南部のミシシッピからニューヨークへでてきた青年が歩いていただけで投獄されるという物語です。差別の根強い南部から北部への移住、そして都市のゲットーでの警察暴力、麻薬問題、不完全な裁判制度。さらには、現在アメリカの最大の問題である〈大量投獄〉、警察取り調べや刑務所内での暴力の問題を予見していたといえるでしょう。
 今回はここまで、七〇年代前半までとします。アフリカからアメリカ大陸へと流されてきた人々は、南から北へと新天地をもとめて「移動」しました。ヨコ移動です。このあと、ふたたび二輪馬車に乗って天国へ向かうというタテ移動の物語が復権します。
 いうまでもありません、問題はこれからです。これから、アメリカでも日本でも公民権運動やブラック・ライヴズ・マター運動をひきつぐ大きな運動がおこると思いますし、必ずそこに音楽もあると思います。(おわり) 

2020年5月

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