『革命はテレビ放送されない』の解説(その2)




(第一段落)
You will not be able to stay home, brother. You will not be able to plug in, turn on and cop out. You will not be able to lose yourself on skag and skip out for beer during commercials. Because the revolution will not be televised.

なあブラザー もはや家に閉じこもっていられないぜ。家でテレビのスイッチをいれてチャンネルをひねってくつろいでる場合じゃない。家でヘロインで夢心地になっている場合じゃない。CM中にビールをとりに行っている場合じゃない。なぜなら・・・革命はテレビ放送されないからだ。


(第一段落の解説)
 この詩で語られるメッセージはいたってシンプルで力強いものです。ギルは、単刀直入に、最も伝えたいことを、冒頭、第一段落の一行目で言い切っています。それは、《黒人は、家から出ろ》ということです。
 これほど分かりやすいメッセージがあるでしょうか。これが彼の言いたいことの全てです。(これから詳しく書きます。)つまり「黒人の暮らしを良くするためには、我々は行動しなくてはならないのだ」と言っているわけです。
 なぜ家を出なくてはならないのでしょうか。曰く、「なぜなら、〈革命〉が家に届けられることはないから」。家でテレビを見たり、ビールを飲んだり、ヘロインやコカインをやっても、革命はやってこないぞ、と言っています。

 二行目の「plug in, tune on and cop out(電源コードを差し込み、スイッチをいれて、現実から逃げる)」は、LSDの推奨者として知られるティモシーリアリーの有名なスローガン「Turn on, turn in, drop out」(「キメろ、ハマれ、ブッ飛べ」拙訳・・・みたいな感じかな?)をもじったものです。ギルの文脈は、「LSDを使って意識を解放させて世界を変えようなんてバカなことを言ってた奴がいたが、そんな他力本願じゃだめだ。それと同じで、家でテレビを眺めてても、自己変革も起きないし黒人の状況も変わるはずがないゾ」ということです。
 ・・・うーん、耳が痛い。そう感じるのは僕だけではないでしょう。テレビに加えて、パソコンやスマホに自分の時間の多くをハイジャックされている現代人は、いかにして革命的になれるのか・・・。これが本稿のテーマです。

 「skag」というのはヘロインのことです。「ヘロインでハイになってんじゃねえ」と言っています。その次、「CM中にビールを取りに行ってる場合じゃない」というフレーズは、何かのジョークのようにも聞こえますが、とても思わせぶりな一行です。
 これはつまりこういうことです。「CM」というのはテレビ広告のことです。「ビール」というのはアルコール依存のことを表しています。つまり、この三行目でギルは、現代社会にはびこる病理として三つのものを並べています。麻薬、アルコール、そして広告です。
 ギルスコットヘロンは代表曲「Home Is Where The Hatred Is」で麻薬問題をとりあげ、「The Bottle」でアルコール依存の問題をとりあげました。そして、この曲『革命はテレビで放送されない』は、広告の問題をとりあげます。  第一段落でギルは、私たち黒人の未来のためには、家にこもって三つの悪魔、すなわち麻薬・アルコール・広告に冒されていてはいけないのだと訴えています。


(第二段落)
The revolution will not be televised. The revolution will not be brought to you by Xerox in 4 parts without commercial interruptions. The revolution will not show you pictures of Nixon blowing a bugle and leading a charge by John Mitchell, General Abrams and Mendel Rivers to eat hog maws confiscated from a Harlem sanctuary. The revolution will not be televised.

来るべき革命とはテレビ放送されないのだ。革命は「ゼロックス社の提供でお送りしま・・・」せん。革命は「CM無しの四部構成でお届けしま・・・」せん。
革命とは映像化できないのだ。したがって、ニクソンが突撃ラッパを吹き、その手駒たちーーーミッチェル司法長官だの エイブラムス軍司令官だの アグニュー副大統領だの リバース議員だのーーーが、ハーレムの黒人教会の台所から豚モツをカッパラってきてムシャムシャ食べる・・・そんな放送も無いのだ。つまり革命とは放送することができないのだ。


(第二段落の解説)
 「ゼロックス」というのは、馴染みがない人も居るかもしれませんが、コピー機(複写機)をつくっている企業です。コピー機は、かつては、いっぱしの会社にだけ設置されている高価な機械でした。もう死語ですが、70年代から80年代の始めにかけては「コピーする」というのを「ゼロックスする」などといいました。
 このポエトリーでは、これから数段落にわたって、たくさんの企業(数えてみたら全部で13社ありました)を槍玉にあげて、コマーシャル(広告)批判を展開していくのですが、その一発目としてゼロックス社が持ち出された理由はわかるでしょう。つまり、「革命はコピーできない」ということを暗に表しています。
 ギルは「コピー技術」そのものを批判しているのだと思います。本当に大事なもの、本当に価値のあるものは、やすやすと「コピー」できない。ましてや〈革命〉などがそう簡単にコピーできてたまるものかと。

 その次の言葉「コマーシャル無しの四部構成」の意味するところは、あいにく僕にはよく分かりません。アメリカに住んだことのある知人に訊きましたら、「むかし、そういうのがよくあった」とのことです。おそらく、「コマーシャル無し放送」と銘打たれた番組であっても、当然ながらいずれかの企業がスポンサーとなっているわけですから、それはまやかしです。そのことをギルは指摘しているのではないかと思います。
 くわえて、「四部構成」というのは〈革命〉は小出しに振り分けることの出来るようなものではないことを暗示しているのでしょう。さきほどのコピーの話と同じです。

 つぎのニクソン云々のところは重要です。「The revolution will not show you a picture...」この一文は、のちのちにギルがインタビューで何度も語っている重要なポイントとかさなります。インタビューで、「革命とはーーー少なくともその初期の段階においてはーーーまず人間のアタマの中で起こるものであって、それは決してフィルムにおさめることが出来ない」とギルは発言しています。つまり革命とは思考なのであって映像化することが叶わない。(これはさきほどの複写技術批判と、ほぼ同義といえるでしょう。)  このくだりを翻訳することはなかなか難しいように思えるのですが、意味としては、下記のような具合じゃないかと思います。いかがでしょうか。  「アンタ、テレビの前に座って何を待っているんだい? ニクソンが突撃ラッパを吹き鳴らす映像でも待ってるのかい? ミッチェル司法長官が黒人の子供から食事をとりあげて自分がムシャムシャ食べている映像でも見たいのかい? そうすればアンタの頭のなかで革命が起きるとでもいうのかい?」

 第二段落でギルが訴えていること:革命とは複写できないし映像化もできない。


(第三段落)
The revolution will not be brought to you by the Schaefer Award Theatre and will not star Natalie Woods and Steve McQueen or Bullwinkle and Julia. The revolution will not give your mouth sex appeal. The revolution will not get rid of the nubs. The revolution will not make you look five pounds thinner. Because the revolution will not be televised, brother.

革命は、〈シェーファー劇場〉で放送されたりしない。革命には、ナタリーウッズも出演しないし、スティーヴマックインも出演しないし、ブルウィンクルも登場しないし、それから、ジュリアも登場しないのだ。
革命で「歯が白くなら・・・」ないし、革命で「剃り残しナシになら・・・」ないし、 革命で「装着したら5キロ痩せて見え・・・」ないのだ。


(第三段落の解説)
 ひきつづいて、滑稽な言い回しでテレビ批判(広告批判)が始まります。下記のように翻訳してみても良いかもと思いました。どうでしょうか。
 「テレビをつけても〈革命〉は映ってないぞ。なに、ナタリーウッドが出てる? それは革命じゃねえ。それはテレビドラマってやつだ!」
 「なに、ブルウィンクルが出てる? それは革命じゃねえ。それは子供向けアニメだ!」
 「なに、ジュリアが出てるから革命かも? バカ、それは黒人の進歩を装ったシットコムだ!」
 「なに、歯が白くなるらしい? バカ、そいつは革命じゃねえ。それは歯磨き粉の広告だ!」
 「なに、剃り残しがなくて爽快? バカ、そいつは革命じゃねえ。それはヒゲ剃りの広告だ!」
 「なに、装着したら5キロ痩せて見える? バカ、そいつは革命じゃねえ。それは補正下着の広告だ!」

 シェーファーというのはアメリカのビール会社です。「シェーファー劇場」というのはその企業が提供する冠番組枠のことです。またもやアルコールです。ギルは「ビール会社が革命を応援するわけはないだろ」と言っているのです。そりゃそうだ。

   第三段落でギルはこう言っています。テレビが家にとどけてくれるもの・・・それはビールの広告、家族コメディドラマ、西部劇ドラマ、子供向アニメ、美容用品の広告。あなたに必要なものは何一つ届けてくれない。


2018年8月

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