ビールとデモ


 すこし経ちますが、ステイプルシンガーズの名曲「Respect Yourself」を翻訳してみました。この曲は、1971年に発表された社会メッセージソングでした。
「Respect Yourself」by ステイプルシンガーズ

 翻訳に取り組んでみて初めて分かったのですが、この歌は、タイトルから連想されるような「自分を大切にしよう」という歌では無かったのです。むしろその逆であって、この歌は、「他人を大切にしよう」という歌だったのです。恥ずかしながら、いままで僕はまったく気付かずに聞き流していました。
 《仲間というのは自分自身のことである。その仲間を敬うことさえできなければ、どうして黒人全体の尊厳を勝ち取ることができようか》といっています。黒人コミュ二ティーで、いがみあったり、お互いを貶めようとすることがあるので、それを注意しているのです。

   さて、いきなり話がとびます。今年2017年の夏のことを書きます。去年にくらべてぐっと涼しい、まったく暑くない夏でした。
 ある金曜日、僕は国会前にいました。いわゆる共謀罪法案の審議がとじようとしているところで、デモがおこなわれていたので僕も行ったのです。国会前で、僕たちはスピーチを聞いたり、「共謀罪、反対!」「平成の治安維持法、反対!」と声をあげました。
 夜九時半ごろだったでしょうか、デモが終わり、僕は仕事場に帰ることにしました。日比谷公園の駐車場に車をとめてあったので、国会正面から霞ヶ関のほうへ歩いていきました。静かな日比谷公園のなかを通り抜け、まもなく駐車場にたどりつくとき、あるものに思わず遭遇しました。
 それは、連なる電球に照らされて、会社帰りの人でおおいに賑わうビアガーデンでした。夏のあいだだけ、日比谷公園の噴水広場がビアガーデンになっているのです。無数のテーブルと椅子が並べられ、それを取り囲むようにして多数の売店がおいしそうな肉やら何やらを売っています。
 それを見て、率直なところ、僕は怒りがふつふつと湧いてきました。
 ・・・この数年、この日本ではとんでもない法案がつぎつぎと成立して、日本という国が崩落の一途をたどっている(という歴史認識を僕はもっている)。それなのに、丸の内や霞ヶ関といった東京の中心にいる人々はこんなところでビアガーデンを楽しんでいる。なんということだろう。
(・・・ここに居るやつら全員、うしろから膝カックンやったろか!)
 そう思いながら、その宴のなかを通り抜けました。暴走しつづける安倍内閣をなんとかして食い止めなくてはならないと、共謀罪反対のために集まった人は、今日はたったの数百人ほどでした。その人達は、真っ暗ななか二時間ほど声をあげたのに。
 そんなわけで、やり切れない気持ちで車のエンジンをかけたのです。

 しかし、です。車を走らせながら考えました。
 ・・・落ち着いて考えよう。ビールを飲むことは何も悪くない。むしろ、いいことだ。いや、それどころか、そもそも僕が今日こうしてわざわざ国会前に出向いたのも、この国に住む人なら誰でも楽しくビールを飲めるようにあってほしいと願うからだった。そのビールを飲む人を妬んでどうする。
 このビアガーデンにいる人達は、僕と同じ、ただの普通の人たちだ。僕は、全員がビールを飲めるようになるために、自分からすすんでデモに行った。たまたまその近くで、ビアガーデンが催されていた。・・・これは心から喜ぶべきことなのだ。

 そんなことを考えたのでした。
 さて、ステイプルシンガーズのメッセージと、同じでしょうか。ちょっと違うかも知れません。よく分からないけど、僕はなんとなく結びつけて考えているのです。
 「Respect Yourself」(同胞を大事にせよ → 黒人は団結せよ)を僕たちに当てはめるとすれば、「庶民は団結しろ」ということだと思います。
 もしも、現代の日本にパップ(この曲を作曲したステイプルシンガーズのお父さん)が居たとしたら、デモに行ってビアガーデンを批判するやつはパップに叱られるだろうし、ビールを飲みながらデモを批判するやつもパップに叱られるだろうと思ったわけです。

 そういうわけで、平和運動とはすなわち「誰でもビールをたのしく飲めるようにしろ!」ということである。もちろん、ミュージシャンも、楽しい曲をつくったり、ダンスパーティーをしたりしても良いのであーる。



2017年12月

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